即興二次創作ログ / ジャンル:回転むてん丸 お題:闇の海 制限時間:30分

     これは海の絵なのよ、って言ったらお姉ちゃんはぱちんてゴムで弾かれたみたいにクレヨンを落としてしまったからメルは悪いことをしてしまったみたいなのね。
    「あ、ええと。ごめんなさい」
    そういって大きい目をぱちぱちさせる。お姉ちゃんのお目目は黒くてまん丸でいつも泣きそうにうるんでる。先週おうちにやってきたトリシュナお姉ちゃん。背は高くってうんと痩せてる。いつも元気でお仕事をしているリオラおねえちゃんとは全然違うみたい。トリシュナお姉ちゃんはびっくりしたみたいに固まって動かないから、指から落ちたクレヨンがころころ行ってしまうのをメルがつかまえてそれでちゃんと箱に戻したのね。


    「なんだ、お前。ガキに遊んでもらってんのか」

     お姉ちゃんの後ろから背の高い男の人がにゅっと姿をだした。お姉ちゃんと一緒に街にやってきた人よ。よそのお国から来たみたい。ふたりとも住むところがないから、少し泊めてくださいって言ってリオラお姉ちゃんのところで働いてるの。トリシュナおねえちゃんは、お料理やお皿洗いがあんまり得意じゃないみたい。あんまりお皿を割るものだからとうとうメルと一緒に厨房を追い出されちゃったのよ。メルは、遊び相手ができてうれしいけれど。

    「あのね、アスタル。海の絵を描いてるんだよ」

    おねえちゃんが嬉しそうに振り向いた。男の人は怖そうな顔なのに、トリシュナおねえちゃんの目は泣きそうにはならないから不思議なのね。
    「アスタルも、描いてよ」
    私は間違っちゃったみたいだから。トリシュナおねえちゃんがしょんぼりした顔で言うの。あのね、メルはとっても悪い気になるわ。それでそっとクレヨンの箱をおにいちゃんに貸してあげたのね。それで、ピンクでも緑でもどんな色を選んでも今度は黙っててあげようって思って見守ったのよ。だってトリシュナおねえちゃんがあんまりしょげちゃってかわいそうなのね。
    でもおにいちゃんが選んだクレヨンを見て、メルはびっくりして声をあげちゃったの。

    「どれ」
    「あ」

     そのクレヨンはおねえちゃんがさっきつまんだのと同じ色だったのよ。今まで周りにそんな色で海を塗る子はいなかった。メルは青い海しか知らないの。だからなの。不思議に思って訊いたのね。
    「……あのね、ふたりはどんなとこから来たの?」
     お兄ちゃんの目が眼鏡の向こうでニィって細くなったの。ふたりが選んだクレヨンと同じ色よ。赤いのね。それでとっても怖いのよ。

    「戦場」

    そういう色の海もあるのね。
      スポンサードリンク


      この広告は一定期間更新がない場合に表示されます。
      コンテンツの更新が行われると非表示に戻ります。
      また、プレミアムユーザーになると常に非表示になります。

      感想等ありましたら