以下は別名義で支部に掲載していたものです。

    ○○さんは「涙腺」というタイトルで【500字以上】の文章を書いてください。 shindanmaker.com/181753

    ◆◆◆

     多少乱暴でもいいんだろ、と訊かれたので穏当ではないと構えていたら平然とした顔で言い渡された。

    「もうあんたバスケしねぇんだろ。」
     
     シーツの上に体を縫いつけられたまま今吉は呆気にとられた顔で青峰を見上げ、次に笑い飛ばそうとして、し損なった。
    高校生活の全てを捧げて挑んだ最後の試合で、苦い思いをしたのがつい先日のことだった。WC初戦敗退、で今吉は高校の3年生だったから引退を宣言したのだ。あの日飽くほど泣いたのでもはやこれ以上はと思っていたが、こんなところでまた潤む涙腺に苦しめられようとは今吉も覚悟していなかった。唇が、慄く。
     ちっともバスケをやりたがらない自軍のエースに、試合に出たらいい思いをさせてやるという子供か動物を手懐ける要領でセックスを提供するのはこれで4度目だった。はじめは手で、その次は口で、挿入までいったのは今日が二度目で。主将を引退した今吉が青峰を無理にコートに立たせる必要はないからこれで最後になる。
     体を合わせる口実も最後だ。それも今吉の寂寞を手伝っていたかもしれない。今吉はこの残酷な暴君が好きだった。

     「…泣くなよ。」

    顔を歪めた今吉を見て少しうろたえたように青峰が言ったが、それが自分を気遣ってのものではないのを今吉は知っていた。上体を被さり腰を寄せてぴたりと密着する青峰の下半身の熱が、性行為への期待に因るもので、今吉自体にはさして関心がないのを知っている。興が削がれればすぐに温度を失うのだろう。知ってはいたが、今そういうことを口に出されればすぐにでも決壊してしまいそうだった。声帯が震えるのを堪えて今吉は青峰の言葉のその先を止めようとした。

    「すまん…。すまんけど、ちょっと……黙っといて。」
    「しらけんだろ。」

     追いうちのような言葉を聞いてしまうとぐっと胸いっぱいに何か、せり上がって駄目だった。引き絞るようにか細く、嗚咽の声が口から零れたことに自分で驚いた。見れば青峰も、思ってもみない今吉の反応に鼻白んだ様子でいる。引かれている、と思うと一刻も早くこの状態を収めたくて焦るのに悲しくて余計涙が溢れる。横隔膜が震えて、ひっ、ひっ、と呼吸の音を上擦らせた。
    深いため息を吐いた青峰が、ゆっくり状態を起こし離れるそぶりを見せる。今吉はそれを追い縋るように掴んで引きよせた。

    「す、すまん…もっ、もう、止まる…とめ、るで…待って、はな、れていかんで。」

     あまり泣いたことがない。経験がないから一度泣いてしまうとおさめ方がわからない。いつまでもひくひくと全身を震わせている今吉の肌を撫でて青峰は思案深げな顔をしていたが、やがて具合のよさそうだと判断したのか熱っぽい声で「いれていい?」とだけ訊いた。


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