俺はセックスが上手くないんだ。俺がそう言うと彼女はきょとんとして、そんなの全然気にしないのにって呟いた。4分の2拍子の間はもしかしたら呆れたって意味だったのかもしれないけれど、俺はそういうニュアンスとか所謂空気を読むことが得意じゃない。怒っちゃったかな。やっぱり不機嫌に見える彼女の手を握って、ごめんねって言うと、「ごめんってどういう意味のごめんなの?」って訊いてきた。
「ごめんね、えっちしよ。」
もう。笑うみたいな、怒ったふりみたいな態度で彼女の手がひとつ俺の胸を叩く。俺はどうしていいかわからないから、木偶みたいに叩かれているだけ。
このあたりはホテルが多いんだ。地元の人間なら誰だって知ってるよ。 ほんのついさっき、足が痛いと言って、こんなところでわざとしゃがみこんで見せたのは自分の方なのに、彼女は考えてるふりをする。
「どうしようかな」
駆け引きばっか。純ちゃんみたいだ。俺はこんなまるで無駄みたいなやり取りはさっさと終わりにしたいのに。細い首に早く手を絡めたくって俺の指はポケットでひくひく震えてしまった。我慢はあと少し必要だ。
先日、お風呂場に沈めて動かなくなってしまった恋人の純ちゃんのこと、俺は考えていたよ。
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ピアノ(葦木場とモブ女 と少し葦手)
俺にセックスが上手くないって言ったのは純ちゃんだ。
俺は純ちゃんが猫みたいに体をひねって、くすくす笑い、ヘタクソって俺を責めるのが好きだった。だから本当はわざとたどたどしく触れていた部分もある。
「よく、楽器を、女の体だと思って弾けって言うだろ。」
「そうだね。」
「俺のことピアノだと思って抱いたら。」
ぼーっとしていたら、おへその下を抓られた。栗色のやわらかい髪の女の子が今の彼女だ。純ちゃんはキツいくせっ毛だったけど、誘うようにうねる彼女の髪の毛は多分きちんと手入れをしてこうしたやつ。さっきまでおちんちんをしゃぶっていたけど、俺が上の空なことに気がついて機嫌が悪い。ねぇ、今誰のこと考えてたの、なんて聞かれるから純ちゃんのことだよって言ったらますますむくれてしまった。
「どんな子?」
「え?」
「前の彼女でしょう、純ちゃんって。」
俺はうんと考えて、純ちゃんの柔らかい黒い毛や、ジャージの下の焼けていない白い肌のことを思い出していた。白黒のコントラストが強烈で、歌の上手い純ちゃん。
「ピアノみたいだよ。」
指で辿ると音を返して俺を嬉しくさせてくれる。子供の頃から大事だったのに。俺が癇癪を起こして乱暴にしたから音も鳴らずに冷たく固くなってしまった。
「シの音が壊れてて」
今はもう鳴らない。
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「シ」は幸せの(葦木場と手嶋)
・・・準備中・・・
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