猫が滞りなく死にましたので(テツジン)


    【即興二次創作】お題:猫の四肢切断 制限時間:15分
    ※猫が死にます

     店の裏手で残飯を与えていた猫が死んでしまったというので、小さな友人のメルと一緒に、テツジンは随分落ち込んでいたのだった。
    つい先日も海沿いの、人気の少ない洞穴のあたりで猫が殺されてどうも虐待があったらしいとニュースになったので皆で憤っていたのだ。アスタルは、機械兵のテツジンがあれほど人を殺していたというのに他愛も無い猫の生き死ににすっかり項垂れてがっかりしてしまっているのを「よほど人間らしくなったのだ」と思ったのだ。テツジンの肩を抱いて横に座る。

    「猫のニュースが・・・」
    「おお、気の毒にな」
    「あれを見てリオラさんが言っていました。人の心があるヤツなら、そんなことはできない、と。」


    ところが猫を殺せたので私には人の心がないようです。テツジンが言ったのでアスタルは沈黙した。そうして2分ばかり考えたあと「お前の友達には言うなよ」とそういうアドバイスをしたのであった。なぜと問う

    「まぁ、ホラ。言えねーだろ、人の心があったらよ」

    機械人形はハッと顔を上げた。




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    寓話 (テツジンとアスタル)





    ある日、街角におしゃべりロボットが設置されました。

    「私の名はテツジン。人の心を勉強中です。たくさん話しかけてください」

    町の働く人たちは忙しいので相手にしませんでしたが、路地裏に住む孤児のアスタルはテツジンのことを面白いと思ったので、毎日テツジンのところにやってきておしゃべりをしました。テツジンは他人とおしゃべりをするごとに知識を積み重ねてより感情ゆたかなロボットになるそうです。
    テツジンはアスタルがボロを着ていても親や家がなくてもそんなことは少しも気にしなかったし、出会い頭に「救貧院に入りなさい」なんて無礼な挨拶もしないのでアスタルはテツジンを気に入ってました。
    町で拾った新聞をおみやげで持っていくとテツジンはとても喜びました。アスタルにとって新聞は夜に体を覆うための毛布でしかなかったけれど、テツジンには貴重な学習材料となるようです。それからアスタルはごみ捨て場で拾ったペットのネズミを見せてやりました。テツジンは戸惑うように慎重にネズミを包み持ち、「彼はなにを好みますか?」と囁いたのでアスタルは笑いました。テツジンの足元で盗んだサンドイッチを食べると、パンくずをネズミにやりました。テツジンは興味深げにそれを見ています。
    ふたりは友達になってしばらく過ごしました。アスタルが毎日、新聞といろんな面白い話を届けてくれるので今ではテツジンはすっかり賢くなっていました。

    「私はもうじき施設に回収されます。そこで私がこれまでどれだけ人と心を通わせたか、研究の成果を確かめることになります。きっと私は成功例になるでしょう。随分ものを知ることができましたから」

    テツジンはそういってアスタルにパンを差し出しました。町に来るときに持たされた紙幣でテツジンが買ったパンです。

    「アスタル、あなたはとても気の毒な人です。私は心がありますので、あなたにパンを与えます。」

    アスタルは顔を真っ赤にしてテツジンを見上げました。握りしめたアスタルの拳が震えているのがテツジンはよくわかりませんでした。
    それから、とテツジンは言いました。

    「ネズミは感染症を引き起こします。ネズミと食事を分け合うのはやめた方がいい」


    アスタルは立ち去り二度とテツジンの前にやってきませんでした。回収の日がやってきて、施設の職員がテツジンをトラックに積みました。
    テツジンの記録を調べると職員はがっかりしたため息を吐き「友達のひとりもいないのか」と呟いたのです。
    テツジンはアスタルとネズミのことを思い浮かべましたが結局、施設に戻った3日後に失敗例として記録されたのちゴミ箱へ捨てられたのでした。




    おしまい






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