「お前ずいぶん細かくなっちまったなぁ」
サイタマは幾分のん気にそう言って、災害現場に四散したジェノスの破片を集めていった。なにせヒーローたちが立ち向かう災害や外敵はいつだって強大なものだったし、激しい戦いの結果ジェノスがこんな風に細かくなっちまうのを目にするのも今にはじまったことではないからだ。
専らの心配は、ジェノスにサイボーグとしての体を与えたクセーノ博士が既に病気によりこの世を去っていることで、直せる人間がいないとなるともしかするとジェノスの体は最悪このままかもしれないなとサイタマは思った。そのときは自分がガムテープでも貼ってやって居間にでもおいておくことになるだろう。それでもまぁ、最悪それだってよかったのだ。
誰がジェノスを直すのか、というサイタマの悩みはとある研究室が名乗りをあげたことで解決された。国から開発援助をたんまり受けてるロボット工学のオーソリティで、S級トップクラスで活躍する人気ヒーローの修繕に関わるとなれば実績と名を上げることができる。彼らは無償で喜んでジェノスのパーツを引き取ったのだ。孤独を好むクセーノ博士が自らの技術を誰とも共有しないまま死んだので、その秀作を存分に手元で調べることができるのも魅力のひとつであったかもしれない。
はたしてジェノスは修復された。
「どうです。クセーノ博士は自身の研究記録をついぞ他所に発表されることはありませんでしたが、我々は博士の代表作品であるロボットヒーロージェノスの活躍記録を参考に独自のアプローチでクセーノ博士の遺作、ジェノスをこの世に完全再現したわけです。勿論今回、損傷が激しいとはいえ、土台となる機体が残っていればこその成功です。けれど我々の研究チームは今回得たデータを元にすぐに博士の研究レベルに追いつ・・・・・・」
サイタマはきょとんとした。なんとなく話に違和感があるようだ。
「再現って?」
「そうです、そうです。主に女性層の指示が高かった容姿はそのままヒーロー協会の公式資料を参考に再現、一般的な成人男性並みの体積を維持しながら搭載される戦闘機の火力、機械音声は限りなく肉声に近く、」
「おい、違うぞ。もしかしてお前たち間違ってるぞ」
サイタマはどうにも慌ててしまった。自分はジェノスのコピーを製作してほしかったのではない。ジェノスを直してもらいたかったのだ。
「ジェノスは人間だよ」
それでラボラトリはしん、とした。生きた命を機械の体のどこに宿すのか。クセーノ博士はついぞその研究記録を誰にも明かすことがなかったし、まして機械仕掛けのヒーロー・ジェノスが人間だなんて思ってなかった人びとが、ジェノスの体にきちんと命を移せるか注意を払うわけもなかったのである。
ジェノスをひとりの命たらしめていたものはどこへやら、あとにはジェノスに良く似たアンドロイドが「センセイ」と口にする、何の感情もない無機質な音が響いた。
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