夜中に真波くんが来て「坂道くん、ねぇ走ろう」なんて言うものだから僕は困ってしまった。
「ねぇ最近おかしいんだ。いつもふわふわしてて全然生きてるって気がしない。自転車捨てられちゃったからかな。坂道くん、走りにいかない?」
部屋はものすごい寒さで僕は恐る恐る布団から顔を出して真波君にいわなくちゃならなかった。
「真波くん、真波くんは死んだんだよ」
二月の朝だった。川下に死体で上がった真波くんの顔は冷たくて、唇の表面に霜が張り付いている。睫毛の先も凍って固い。『じゃあ、』なんて真波くんが大きな目をぱちくりする。凍った上下の睫毛が張り付いてしまって僕はそれを指でつまんで温めてあげなくてはならなかった。
「僕はもうずっと生きてる感じがしないってこと?」
指の先がひりひり痛い。溶けた氷が真波君の目のふちに溜まって滴になって頬を落ち、それで朝が来た。
(坂山/冷たい頬)
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