○○○○さんは「壊死」というタイトルで1000字以内の文章を書いてください。 shindanmaker.com/181753
◆◆◆(木日)
さすってくれよ、と頼まれて仕方なく布団の下で肌を探って触れていた。もう長いこと足を悪くして寝てばかりいる木吉に、そうすればよくなる気がすると頼まれれば、言われたとおりにしてやらなければならない気がした。
「手、冷たくねぇか。」
3月の上旬になるのにいつまでも寒い。病室の中はさすがに空調が効いて暖かだが、外は手袋をしていないのを悔むぐらい冷たく風が吹いていた。寸前まで指先の感覚を失うくらい凍えていた俺の手が心地良い筈ないのに、木吉は何となくうとうととした目をして「あったかい」と言った。
「ハァ?本当かよ…」
木吉は眠たいのだろうか。どこか焦点の定まらない熱っぽいような目をして、毛布の下で俺の手が動くのを見下ろしている。あまり居心地がよくないこの空気をどうにかしたくて俺はわざと木吉の膝の上を強く抓った。木吉がでかい図体を丸めて縮こまり、俺を見返すのを期待した。悲鳴があがってもよかったが、意地悪い俺の期待を余所に、意外に木吉は静かだった。妙に、静かすぎた。
「き、木吉……?」
「ん?どうしたんだ、日向。」
きつく、めいいっぱい皮膚を抓り上げていた。普通なら飛び上がって痛がって、俺のことを責める筈だ。それでなければおかしかった。お前さ、恐る恐る呼びかけると木吉は不思議そうに首を傾げ、それで変に心臓が跳ね上がってしまった。
「手、あったかいか?」
「ああ。」
あったかい、と木吉が答えると俺はもう手の震えを隠せなかった。
さっきから強く爪を立てている。血が出てもおかしくないくらい、いやおそらくきっと血が出ているだろう。なにか反応されたくて俺が必死に肌を掻き毟ってやっているのに木吉はのんびりと笑みを浮かべていた。この足は本当に生きているのか。もう皮膚感覚も失っているんじゃないのか。俺が諦め悪くもがく手を、木吉が毛布の上から静かに抑えた。体温の高い、でかい手で。
「ありがとな、日向。なんだかもう明日からでもよくなりそうだ。」
風が病室の窓をガタガタと鳴らして嫌な感じだ。外はまだ大分寒いだろうか。
天気予報は連日「明日にでも春の陽気に変わるでしょう」と予測していたが、俺にはどうもこの長すぎる冬が終わらない気がしてならなかった。
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